日本の山岳景観mapRaster2 表示例

小方 登(京都大学 人間・環境学研究科)


日本の国土は山がちで,約70%が山岳や丘陵地で占められるといわれています。また,こうした山々の大部分が森林で覆われているのも,日本の国土の特徴といえます。水田での稲作を主たる生業としてきた日本人は,古くから山々の樹木に水源涵養の機能があり,河川水量の安定と洪水や土砂災害の防止に役立っていることを認識していました。弘仁12年(西暦821年)に古代の日本政府が出した通達では,灌漑用水となる河川の流量安定に,水源の山々の樹木が重要であることを指摘しています。

産業の務めは,ただ堰池(水利施設)のみにあらず。浸潤の本は,水木相生にあり。然らば則ち水辺の山林,必ず鬱茂せしむべし。何となれば,大河の源,その山鬱然たり。小川の流れ,その岳(おか)童(かぶろ=坊主頭)なり。ここに知る,流れの細太は山に随いて生ずと。それ山,雲雨を出し,河,九里を潤す。山童にして毛(草木)尽きれば,渓流涸乾せん‥‥(太政官符 弘仁12年4月21日『類従三代格 巻19 禁制事』所収)

このように,集落・耕地といった生産・生活の場から距離的に隔たってはいても,山々は人々にとって身近な存在であり,燃料・肥料などの採集地として利用される一方,神々の領域としてしばしば畏敬と尊崇の対象となってきました。伝統的な山の尊崇の多くが神道の形態をとる一方,仏教寺院が山中に立地して道場となることも多く,さらに神仏習合の流れから,日本の代表的な山岳信仰である修験道が成立し,聖なる山々を修行の場としてきました。

ここでは,デジタル標高モデル(Digital Elevation Model: DEM)として,国土地理院数値地図(50mメッシュ標高)を利用し,mapRaster2の鳥瞰図表示機能により地形モデル上に地球観測衛星LANDSATの画像をドレープして,日本の山岳景観の特徴について学習できる素材としました。LANDSAT画像の表示では,土地被覆の多様性を強調するため,近赤外バンドや中間赤外バンドを組み合わせたフォールスカラー合成が用いられることが多いのですが,ここでは派手になりがちなフォールスカラー合成ではなく,より見た目に近いトゥルーカラー合成を優先して用い,親しみやすい表示としました。新緑の季節のシーンを選ぶことにより,トゥルーカラーでも美しい表示が楽しめ,広葉樹と針葉樹の識別も比較的容易となっています。また,日本の山岳の険しさを実感してもらうため,あえて標高の強調は行いませんでした。


大峰山(奈良県)

日本の山岳信仰の一形態である修験道の霊場であり,2004年7月に「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部としてUNESCO世界遺産に登録された。画面中央の大峰山と手前の大台ヶ原山の間を南流するのが北山川(熊野川の支流),大台ヶ原山から画面奥を西北流するのが吉野川(紀ノ川の上流部)である。吉野川の流域は,日本における育成林業の発祥地,吉野林業地域である。

 

立山(富山県)

古くは越中国司を勤めた大伴家持が詠んだ歌が万葉集に収録されている。修験道の霊場であり,山岳信仰を視覚化した「立山曼荼羅」でも知られる。

北アルプス連峰に連なるが,火山であり,中腹には大量の火山噴出物が堆積して高原を形成する。この火山性堆積物は,地震や大雨のたびに崩壊して,立山を水源とする常願寺川に流れ込み,洪水や土砂災害を起こすので,常願寺川は制御の難しい「荒れ川」の代表とされてきた。 右の画面からは,中央を流れる常願寺川が著しい急流であり,上・中流部で火山性堆積物を浸食する条件にあることが読み取れる。

 

阿蘇山(熊本県)

直径およそ20km,世界最大級のカルデラをもつ火山である。カルデラを形成した最後の大噴火は,およそ8万5千年前のものとされる。右の画面では,カルデラ地形の特徴を際だたせるため,標高だけによる単純な色遣いで表示している。中央火口丘の中岳は,近年でも活発な火山活動を続けている。

 

富士山(静岡県・山梨県)

いわずと知れた日本の最高峰で,美しい形をした成層火山。静岡県,山梨県にある浅間神社の信仰の対象となっている。